鏡のない国 第6話「Rosie you can」

覚えてないだろ。僕ら二人であのお化け見た事あるんだぜ。
東の森の主、濃灰の巨大な化けもん、学校の裏の鉄塔は勇者の雷が降りる前に僕らで目指したね。くっつき虫を100個つけて帰ってきた。
疲れた庭のてんとう虫。シチューは母さんがどんなに僕らを怒っても暖かかったろ。
ずっと一緒に居たいって思った事あるかい。僕はあるぜ。
通り過ぎていった11月の夕空の羽根も。君は鼻水でずいぶん汚していたね。悲しかったかい?僕はあの独りで見た世界を誇りと呼んだよ。
愛って君のそのどうしようもない哀しみに一番近いんだ。どうして友達は君を毎日ナイフで刺していたんだろう?僕は怒ったけど君は笑っていたね。
僕ら本当に似てたんだ。だけどいつも挫けるのは君で、君の為に立ち止まるのが僕だった。
君は実在しないと誰もが諭したけど、僕だけは知ってた。だって僕の、この頭の指揮を取って生き延びてやりたいって思いは本物だぜ。
それなのに君は度々僕の足場を奪ってわざわざ泣いたり笑ったりしたもんだろ。どんなに嫌になってもやめないのは君の悪い癖さ。あのお城が崩れるまでもう時間がない。
君は知らないだろうけど、僕ら友達だったんだぜ。
僕は君の価値を知っていた。君は泣き出す前にいつも僕を呼んだね。それだけが「負けない」ということだった。報われない努力が在ること、叶わない夢が在ること、自分が、もしかしたら幸福ではないかもしれないという事、ひとつも認めないで走り続けていた君に、誰にも内緒で一度だけ、声に出して叫んだんだ。


もう僕は影を失くさない。愛するっていうのは、愛し続けるってことなんだぜ。
君はもう幼い頃からそう繰り返しては落胆していたね。
この影に隠れて付いておいで。君は全てを手に入れられる。もうスポットは存在しない。そこに立つ者以外をいちいち排除する必要がないからさ。
「存在する」っていうのはこういう事なのかな。僕ら一度失くした輪郭を確かめて、確かめて
「信じられない。」
「信じられない。」
って互いの目を見たね。
現在地を確かめるってこういう事だろ。過去と未来をたくし集めないで、皺の間に哀しみを隠さないで。僕は確かめる。何度でも。
未来ってそういう事だろ。


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