一粒も涙の流れなかった夜

すべてを映すその黒い眼に
退屈な大人になった僕が映る。
諦めで世界を縮小し
いつかの自分の声も聴けなくなる。
正しさは「正しさ」を批判しても
その”正しさ”は誰が正すのだろう。
嘲笑と「こんなものだよどうせ人生は。」
誰もが吐いた言霊で今日も空気は濁っていく。


誰だってひとりで換気は出来ない。
それでも必死で息を潜めていた。
これ以上二酸化炭素が満ちないように。
誰か助けてくれるの?
食べ物がとっくに無い。
辛うじて飲み水くらいなら。って
塩分過多の濁った水ばかり。
飲めば飲むほど渇いていく。


すべてを映すその黒い眼に
醜い家畜になった私が映る。
自分の言葉を忘れた代償が。
誰かの声でまた遠ざかる。
弱さは「弱さ」の頬叩いても
その”弱さ”は何処から湧くのだろう。
張りつめて、「終わるはず無いわ人生は。」
唱えれば叶うなんて思い込みだろう。


慈愛も諦めも愛と見間違えば
脂肪分過多の餌が積み上がる。
あの日見つけ合った骨の形が
醜いレイヤーで見えなくなる。
「ご飯は残しちゃいけないの?」
これを食べ続けて延命を望むくらいなら
今、辞める。



崩れゆく夢物語から
住人達はこぞって逃げ出した。
食料も全部持ち出して
やせた犬にやる残飯も無い。


空さえ綺麗ならと見上げれば
目玉が濁っていてよく解らない。
いつか理想の死に方を笑って話した。
路地裏から見上げる青空の話を。


崩れゆく夢物語から
最後の一秒まで逃げなかったらどうなる?
分解され砂漠の塵になるだろうか。
それともあの灰色の中にまたひとりで立つんだろうか。


間に合うか?なんて問わずに走る。
いつだって間に合ってない。
君の部屋。無駄に持っている合鍵。
間に合ったことなんかずっと無い。
飛び散るガラスに両足は染まり
投げる者もいないのにどこからか石が降ってくる。
血は生温い、生臭い。
致死量なんか忘れた。
初めからずっと間に合ってない。
こんなomamagoto、現実と
一体何が違うというのか。


いつだって間に合っていない。
花は何度枯らした。
一回のチャンスを
何回も棒に振った罪。
許されるはずが無い。
この世は地獄だ、身から出るくだらない毒物全部含めてこの世は地獄だ。
灰色の世界だけは嫌だ。
灰色の世界だけは怖い。
灰色の世界だけは
灰色の世界だけは。


 あなたが
 もうその部屋の中で死んでいるとしても
 わたしは
 窓を開ける。
 そよ風が申し訳程度に入って
 充満した腐臭を何%か和らげるだけでも
 わたしは
 窓を開ける。
 瓦礫に変わり、もう砂になる街で。
 分厚い雲で宇宙の天気も測れない街で。
 落としてきた血溜まりは知らないが
 今この瞬間にわたしから流れ出ている血潮からは
 決して腐臭はしない。
 今この瞬間にわたしは生きているから。
 死んだふりをしていないから。
 窓を開ける。
 あなたが望んでいないとしても。
 考えて走ったわけじゃない。
 青空が忘れられない。
 灰色の世界は怖い。



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