澄んだまま割れる(さよなら)

淀んだ水を飲みそうになったって、ぎりぎりでちゃんと思い出してきた賢い私なら。

今更何も怖がらなくていい。

浮かんだのはちゃんと、出会う前からずっとずっとあなた。

泣いた夜もちゃんと見てた。
暗闇ばかり見えてしまう夜も本当はちゃんと見えてた。
私が揺らぐことのできない存在だということを、わかっていた。

寂しくなって、寂しくなって、
知らないふりをしたことも。
昨日までの自分の尊さを、忘れてしまおうとしたことも。

本当ごめんね。
本当ごめんね。

私は、あなたを愛することで、自分を愛そうとしているの。

私は、自分を愛しているから、あなたを愛さずにいられないの。

それが傲慢な勘違いだとしたら、
お願い。早く教えて。
それが叶わぬ願いだとしたら、
お願い。早く奪って。


とか言うの。一人で毎晩なにもない空を見るの。ラブ・ミー・テンダーですら毒薬と同じなの。苦しい。

魔法はとけるはずないのに。本物ならばとけたって、何も怖くないはずなのにね。

私だって人間なんだね。


こういう思いももうすべて、煩わしいね。
目を見りゃわかるでしょう。女みたいにぎらぎらして嫌になる。フラットでいたい。フラットでいたい。醜くなりたくない。澄んでいたい。奪おうとなんてしたくない。憎もうとなんてしたくない。もどかしくなんて思いたくない。ただ澄んだ微笑みでいつでも同じ距離に立って、時を待ちたい。


こういう思いももうすべて、真実から遠ざかる醜い這い方故。

たすけて。






嘘。嘘。ごめんね。全部嘘。
助けなんていらない。
大丈夫、大丈夫。
私はきっと賢い。本物に気付く。
大丈夫、大丈夫。
一個言わせて。
あなたに刺し殺されるとしたって笑顔で受けるわ。
きっと最後まで笑えるわ。

なにもいらない。なにもいらない。なにもいらない。中身の満たされぬまま割れて散る小瓶だとしたって、構わない。
濁るよりまし。


なにも怖くないわ。
泣かないでよ。