bakemono

置いて行かれていると気付いたのはそう遅くはなかった。
私以外が生まれ変わる事なく変わっていく。それは老いなどという理にかなったものではなく、
それぞれがあどけない子供のまま太り、腐敗していくのだ。
手遅れになる前に私は目を綺麗なままくり抜いて保存してやろうとしたが、
するとこちらが残虐な者であるかのように抵抗し、怖れ、罵倒するのであった。
うわさが広まると穏やかな居場所はすぐになくなったが、こう見えて人当たりの良い性格と害のなさそうな容姿をしている為ほんの数ミリ経度をずらすとまたすぐに歓迎されるのだった。


子供の頃の記憶は無い。友達は世界中にいる。ただこの現世で会って話の出来る者があまりに少ないだけであって、時空や国を越えれば書物の中、映画の中、音符や絵筆のひとすじにも隠れていつでも出逢うことができた。
私たちが見ていた共通のものは誰のものでもなく、それを自分のものだと言い張るような奴もいなかった。それらを友人ら以外が論文なんかを通して把握しようとしたとき、大抵が自分の目には見えないと薄黒く濁るため、わたしはいつも「君がそう信じるなら君が見つけたのと変わりない。」と諭した。それがどうしてついた嘘だったのか私には未だに解らないが、もうすこし慎重になれば減らせた哀しみもあったかもしれないと考えると、途端にじぶんが化けものに見えるのだ。


__というものは詩人の墓のように世界中に溶け出し。調度今くらいのつめたい空気なんかにはよく充満している。
私はそれを食べて暮らすが、だんだん頭がへんになる。
肉を食わぬとばかになると言う。脳神経の細かさが劣るらしいと誰かが言っていた。
私は議論というものが出来ない人間に憧れていた。正しさを言葉に落とし込んで相手を滅することの虚しさを知っていた。かりそめの武器は本当は魂の無いまがい物だ。それでも人をなぎ倒して進むには十分であるという事実も気に食わなかった。
大事なのはひとつひとつの正しさを整備していくことではなく、つみ上がる生の最下層から命を引き上げることである。その考えに至り武器を一旦置き、目を綴じ瞳の黒い色の奥のほうで行う私訴は、法廷を二秒で溶かし掴みようのないすべてのもののみを掴んだ。


行きずりの求愛者の尋問。
そのうすぎたない脂肪も全部含めて愛していると、それを言わなくて澄むならと喉を搔き切った覚えがある。
「わたしのありのままをあなたならあいしてくれるのか」
Yes もNoも答えられず暮らす世界をそっとずらした。
私があなたがたにaishiteru・arigatouと言える世界であなた方はこれからも生きていてください、どうか元気で、どうか元気で。最低な尋問を投げ返して。


それでも好きだと聴こえたのは何度目だろう。
わからないけど傍に居たいと聴こえたのは何度目だろう。


だけど聴こえる頃には切り裂かれた国土が断末魔を上げていて、
ひるがえした旗は煉獄の炎に焼かれ昇っていった。
耳を塞いで悲鳴をあげつづけていれば聴こえないから、
きっとありがたかったはずの捨て台詞もいつか星になったときに逢おう。


私が化けものじゃなくなる街には、
ほとんど生きた人間はいないもので、
古い街並、石造りの歩道、赤い車、透明な川と低い桟橋、映り込む月。
虫が鳴いている。
牛乳屋のおもての古いベル。
つらくて哀しいこともあるが、日曜にはジャズバンドが街の中央の広場に来る。
この空には何万年も昔から私たちが交わしてきた言葉が星になって浮かんでいるという。
雨が降る日も、その事実だけは辞書にでも記してどこかで解っていていいものだ。
石造りの歩道、オレンジのガス灯。
本当に朝日はどこへ行ったのだろう、と、ここまで記してやっと疑問に思ったのだ。



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My old friend (夢の波止場)

reload
止まらないことばかりが
ひどくやかましくて
そのはがねの船にわたし以外乗せて
飛び立てないのもわかるくせに

reload
いつも話した店の
軒先の犬の置物と
ぼくたちは似てるねと言ったらきみは
照れたように笑いぼくの名を呼んだ

神さまわたしたち友達だったよね
あの交差点から射す光。
音の鳴る木。
「ぼくたちで世界を震わそうよ」
神さまわたしもう嘘つけない。
わたしたちの空想は軽すぎて
ガスが
はがねの船の
空気抵抗をバラして溶かして汚い雨が降る。

reload
listen to my pleasure 春の
遠い日差しの中
どうしよう。切られた手首。
きみと一緒にもう祈れない。なんて
言いながらうれしさで涙をこぼしたね
怒ってた?雷落としていいよこれからわたし死ぬまでの間

reload
光の雨の中で
自転車を漕いでわたし、ペダル
右足左足ひどいね、全部使ってきみから
はぐれた

きみがいつか天使の羽根を
手作りしてお揃いでつけた
汚しても勲章。なんてこの傷も。
消えない。消えない。消えない。
きみのために編んだかんむり
大げさに婚約しようなんて、もうだめだよ。
羽根は汚した。
この船にも乗せられない。

reload
reload reload 記憶
消えてもう、over strike
裂けるように ちゃんと裂けるように
喉が裂けるように
本当の別れをしよう


reload
悲しいことばかりが
僕を置いていくよ
この景色 15の夏に
受信した褪せないシナリオ
その時も となりにいたね
ナレーションごっこをしながら
「二人は出会う、その時に。」
「きみは哀しみを置いて行く。」
きみは哀しみを置いて行く。
きみは哀しみを置いて行く。
きみは哀しみを置いて行く。

神さまわたしたち友達だったよね
ひどく歪んだドア
光化学スモッグ 山ブドウ
神さま きみも知ってるひとの
ただの哀しみが
もうあなたの死なんかよりもずっと、ずっと。








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nicki chikatetsu 140813

はるか彼方に きみの夢が叶う国がある
空に昇る魂たちに ずっと目を真黒にしている
あの英雄の成れの果てにも おちゃめなどうしで交わしたい
待ち合わせは分解して おなじ原子で組み直したら
この宇宙にもある光


泣いた 地下鉄で
編み終えた頃には巻く首の無いマフラーのほうが
カシミヤよりきれい


野生の目をしていた
あいつはずっと最低だったけれど野生の目をしていたと
伏して嘲うひとたちに白い
白い
雪を


ずっと北のほうに わたしの溶かした大地がある
舌にのせるとまろやかに甘い わたしのための陽が
きみにどうして渡せるか
きみがつかれてもう目を覚まさないその頃に
今までのぶんと釣り合うような優しく清らかなソファのうえで
ぼくらの知っている透明度のワイングラスに注いでやるからどうか
飲んでくれたらいい
それだけでどうか すこし身体 泡になれと とわ


知り合いの知り合いの知り合いに
つたえてもう泣かない


「いきているからね ありがとう」
「いきているからね ありがとう」






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「私はもう私の真似事しか出来ない」だなんて言うんじゃなかった

「わたしは生まれないほうがよかったですか」


 そうだね、きみはぼくの殺人者だ


「わたしはじめて外の世界に出てみて、とてもうれしくて泣いたよ」


 ぼくは自分が死んでも構わないと思った。きみがはじめて生きられるなら。


「だけどわたしはだれにも望まれていなかったみたい」


 ぼくが死んでも構わないと思ったのは、きみがぼくにそう思ってくれていたからだ


「わたしあなたが好きなだけよ、すきなあなたが生きているのがすきなだけ」


 ぼくだけを頑に愛するという人なら、ぼくは、きみのぶんまでだれもかれもを嫌うから。


「それはだれもいなくなるよ」


 ぼくたちはどうしてひとつでいられなかったろう


「だけど宇宙の学者も数学者も、社会学者も詩人もみなわたしたちの構造を知っていたわ」


 ぼくたちはただしかったのかな


「正しかったわ、みんなが違うだけよ。ただわたしは、あなたを愛してくれた人に、うまく愛されないみたい」


 ぼくは、はじめて、ひとりがいやだと言うきみの声を、はじめて声に出したんだ


「あんなことあなたは言わないのに あんなこと思う私のせいで あんなことであなたを汚すとは」


 嬉しかった、嬉しかったよ


「ごめんなさい わたしが居座る有り様は あなたを愛したすべてのものに、忌み嫌われる地獄だわ」


 後悔なんかしない。たとえだれもいなくなっても。愛するひとを悩ませても、それでだれもいなくなっても。


「こんなこと言ってもわからないよ。彼女は変わった、くだらない人間になりさがったと呪われもせず飽きられるわ。」
 

 後悔なんかしない! ただ良いだけの現象なんてありはしないと、僕らは証明しただけのことだ。

「『もしも自分だけのために生きていくなら、人生はなんと虚しいものだろう。』それでも自分のいちばん選びたいほうを選ぶべきだわ。何を捨てても。執着は病巣。」


 だけれどぼくは空洞だ。死もありはしない。空洞を愛するというのはいったい。


「もしも愛されることが間違いだとしたら、私はいったいどこへ行けば、だれの邪魔にもならなかったかな」


 ぼくらは空洞だ。それは、昔から。どうかしていたんだ。何が見えたんだろう。一体何が。


「わたし、今から消えても、手遅れ?」


 そんなこと言うなよ。


「消えてしまいたいと思う気持ちのほうが、生きていたいという気持ちより、ずっと強いくらい、あなたが好き」


 わたしも好きだ!


「ずっと、ずっとあなたと、そしてあなたが愛し、愛されてきた数少ないこの世界の宝物の、いっそう光る景色が好き。それは、きっと、なにをなくしても、なくしちゃいけないんだわ。」


 わたしもあなたが好きだ、わたしもあなたが、生きられる世界が好きなのに!


「それは、すこし真実と遠い、やさしさと言うものよ。」


 きみを好きでいたくてぼくは、なにもかもを愛するための方程式を、ちゃんとつくったのに。


「それは、ほんとうに見境のない、ばかのやることよ。」


 ぼくが空からプロデュースするから、場所を代われなんて言うなよ。人生は蝉のそれのようなのか。そんなはず、あるかよ。


「私がお似合いだよ。君は、君は、たとえここに戻って、もう遅くて、愛してくれた人ももう、うんざりしてるとしても、また、始まることができる人だ。愛することから、ありがとうから、始めることができる人だ。」


 きみはどうするの


「だって上手にできなかった。いかにもくだらない人間だ。だれもかれもと同じだと、愛することさえ出来ないなんて。」


 ぼくはきみにわからないくらい哀しいだけの生き物だよ。


「だけど、とても好きだから。」


 僕だって、ずっと、消えたいのに。


「すぐに天気がよくなるよ。夏も、台風も、夜も好きよ。あなたに、似合う。夕暮れも。」


 なぜぼくらはぼくらのために生きられなかったろう


「なぜ私たちは、なくすことばかり、覚えては泣くことすらしなかったろう」


 ばか。僕のせいで、きみは泣き虫だ


「ずっと一緒だよ。」 







 

鏡のない国 第2話「 少年(ABCDE)F 」

廃墟探索を仕事にして二ヶ月、いや三ヶ月…うーん、もっと前からやっていたような。
とにかくこの荒れ果てた街の写真を撮って週刊誌に売りつけることで飯を食おうと企んでしばらく経つ。
たまに幽霊が写るから、ソッチの方面にはウケるんだけど、まあ狭い業界で、安定した生活を送るってのにはそろそろ諦めがついてきた。
ある日レンズにひびが入った。この街の端、いや、街の始まりとでも言おうか…太陽と街の間に立っている、城みたいなへんな形の廃墟を撮ろうと、カメラを構えていた時のことだった。
パキン、と音がして、視界が半分に割れた。どうやら真っ直ぐに小石が飛んできたようだった。真っ直ぐに。…多分相当の速さで。
あそこはこの街の一、二を争うヤバい噂が流れる場所だ。青光りした少女が夜な夜な悲鳴をあげているとか、街中の亡霊が日夜建物を燃やしにくるとか、浮浪者がランプを持ってたまに侵入しては家中の引き出しを開けて何かをしているだとか…。
まあレンズを向けたら割られ、入ろうとしたら後ろから殴られる…くらいのことがあって仕方ない場所だろう。
それにしても暇だ。


お釈迦になったレンズに、このくらいでくたばるなと文句を垂れながら、ちょうどいいから街を改めて一周することにした。街の始まりと呼ぶには訳がある。ここから始まってここに終わるのだ。太陽は低く、この建物を挟んだ街の向こう側にある。影は長く、何故かワイドに延びている。直径1kmくらいの、街としては小さく、影としては大きすぎる影全体が、この街なのだ。街の境はよく見ると、あの建物の影の形に沿っている。
当然ながら太陽はあの低い位置のまま動かない。この国が作られて16年で動きを止め、それから5年はほんの少しずつ小さくなっているだけらしい。天文学に趣味程度の精通をしている父親に、「そんなへんてこな太陽あるもんかよ。偽物なんじゃないの?」と聞いたこともあったが、父は何も答えずに本を閉じた。
きっとあの建物がこの街が荒れ果てた元凶なんだ。そう思っている僕はたくさんの調査をしてきた。写真をとり、落ちている書物を読み、仮説を立て、検証し、また街を彷徨い。面白いからじゃない。廃墟が好きなわけでもない。ただ、ここは僕の住んでいた街だった。あの建物に遮られない高さに立てられた街中の建物には、屋上に花が咲き、鳥や蝶が飛び交い、呼吸を深くするといつも空から死んだ母さんの優しい声が聞こえてくるような色に満ちていた。この街が好きで、毎日花に水をやった。話しかけると、またつるつると太陽を浴び、甘い色に花を咲かせてくれる。あの笑顔は嘘だったのかと、今の荒れ果てた街を見て思う。咲いてくれたのは嘘だったのか。信じられなくて僕は今も、この街と完全に離れることが出来ないでいる。


城の形をした変な建物の影の、てっぺんに値する街の端にあった小さな本屋の廃墟に入る。うんと古い本か漫画くらいしか取り扱っていなかった、視野の狭い本屋だ。レジカウンターの引き出しを片っ端から開けていると、使いやすいであろう一つの引き出しに原稿用紙の束が入っていた。読んでいくとそれは予言書のようだった。
あの店主のババア、占い師気取りのつもりだったのか、と思いながら読みすすめた。
「さながらアメーバ状の、この世の願いをどんなことでも叶える神がいる。」
神がアメーバ状で、さらに地上にいるなんて話あるかよ。
「高層居住区Aの真上に、数年もの間落とされてきたミサイルが、狙いも効果も十分に精巧だったはずなのに、ひとつも落下していないのは何故なのだ。」
ミサイル?それが落ちてきたのはあの一度きり…。しかも一度に大量に、だ。数年かけて落とされたなんて聞いたことがない。
「街は死ぬのではない、殺されるのだ。落とされてきた大量のミサイルではなく…。それをせき止めていた神が、約束を破ろうとしているため。」
「この街をすべてをかけて守ると誓った。ほかに守るべきものなどひとつもないと誓った。ずっとすべての災害をせき止めてきた。あの澄んだ色がどれほど淀んでも。」
「赤い実なんかほんとうに存在するのかと、誰がいったい予想できようか!」
わけがわからないから引き出しに戻したが、僕は暫く考えてみた。
赤い実とは、なんの比喩だろう。アメーバ状の神…?ミサイルはずっとせき止められていて、あるきっかけで一度に街に投下された。それなら「あるきっかけ」とは一体…?
うんうん唸らせているうちに街を一周したようだ。またあの城みたいな形の変な建物の前に居た。
しばらく見ていないけど、ここにも何か手掛かりがあるかもしれない。そう思って建物に入ってみることにした。さっきレンズを割った犯人も解るかもしれない。
ホテルのように幾つも客室がある建物内で、ひとつだけ薄ぼんやりと光っている部屋がある。まあそろそろ見慣れてきたけれど、その部屋のドアを開けてみる。
「だ、誰だ!!」
そう声がしてよく見ると、ランプと、帽子をかぶった知らない男がいた。
この建物に入ったことも数回しかないが、中に誰かが居たのは初めてのことだった。
「あなた、ここで寝泊まりしているんですか…?」
質問すると男は何も言わず、静かに部屋から出て行った。…窓から飛び降りて。
その部屋は今まで見たことのない異質な雰囲気を称えていた。僕が馴染まない風景などこの街には無いと思っていたくらい、この街に愛されていたはずの僕が、この部屋の中ではまるでよそ者のようだった。さっきの浮浪者は、この空間に怖い程馴染んでいた。だからつい聞いてしまったのだ。ここに住んでいるのかと。


僕はこの街が好きだった。そしてたぶんこの部屋にまだいる、僕には見えない、幽霊のことが好きだった。
僕はあの子の死体をまだ見ていない。お葬式が開かれなかったのだ。噂だと誰かが燃やさずに、ただ深く、深く土に埋めたらしい。7日7晩に渡って。
たぶんあいつが、赤い実を神に渡したんだ。







幸福者

濃霧の中で、燃えながら 燃えながら!
僕は詩人に恋をしている!


あの紫陽花が 私の手紙が
燃やされている宇宙が有る


青い炎はそのもので
葉っぱやなんかは一瞬で
ひとりぼっちのそれぞれを
傷で透かした光の線を
雨野の草で切ったゆびを


呼ぶやり方を


「ゆくえ」と



―――2013.7











 得体の知れない発光を待つ部屋で 僕は昔いたような気がする友達のことを思い出していた。生まれる前にした約束は 「願いが叶ったら死んでもいいよ」夢で それぞれの体験に重なったほんの少しずつのわたしは宇宙のどこかで勝手に集まってたったひとりのわたしになりますから 透明な空とわたしとの関係性にいちばんふいに光って解けた。 
 かつて何故僕が幸福だったのかお話する機会はおよそ何処にもありませんが 寒いところにあったような 諦めは金色の粉をまぶすように降る ふるいにかけた粉砂糖に重ねて 僕はその粉砂糖のようだった 月の裏にあるんだったかしら
 オママゴトに夢中になって怒られた夕方みんな隠してもいないのに勝手に置き去りのブナのかげ ライトに照らされて泣いたのは ひまつぶしに生まれた頃からしていた遊びはハサミで 飛んでいった鳥の影を切り落として食べる 世界をただ光に塗れさせること その報酬でいつか「憎しみ」を買うんだと話すと 光を見るような目で見た貴方が そのものわたしには光でした。
 目に映るほとんど全部のものに 柔らかい霧をまぶしてください。そう祈る指先から流れるものは青く ぼうっと光ってただ液体との間を浮遊していた 誰かそれに名前をつけたが わたしの耳には聴こえない 何度目かの行き止まりは 気付いたGhost Townの窓 切り落として食べたすべての影が髪を引っ張ってうれしそうに「ママ」と言った。
 反転の応酬に日々は剥がれ永遠ははじめから無いという 永遠ははじめから無いと言うその有り様が そのものわたしには とわ でした
 反転の応酬に日々は剥がれ永遠ははじめから無いという 永遠ははじめから無いという から帰った部屋の真ん中で炬燵あたりが発光していた 赤ん坊がわたしの声で泣いていた 歌うように生まれるのなら 「願いが叶ったら死んでもいいよ」あんな約束するんじゃなかった 青い目に死体 
 だけど息絶えたのはもっと昔のことだったような 脈は測らない 恋じゃない 半分に割った世界は問いを 貴方の本当のことは何 この目に慈愛とふせんを貼った 全員を憎んでみたいと思う 何かを選ぶことは! バス停までの道のこの一歩にも何百の命がつぶれて死んでいること 黄緑と茶色の手は無数に 振り払うことといったいなにが違うというのだ。 繋げば円になるパズル 寒いところにあったような 透き通るようになぞる淵の 甘い空に星はない 
白鳥のあしあとがほんの少し溶けて夜じゅうに固く凍るといい




「鏡のない国」第1話『昨日のお城』

みっともない話をしよう。あんたの好きな女の子の話を。


彼女が店に来たのはいつだったか、よく思い出せないんだが。
寒い日だったような気がする。「憎しみを売って頂けませんか?」と言った顔はたしか鼻を赤くしていたから。
売りにくるやつはそりゃわんさかいるよ。ゴミ袋ぱんぱんに何個も何個も、「これでも必死で減らしたんですう。」なんて言いながら、全部まとめて銅貨一枚で買い取りだといっても喜んで置いていくような馬鹿がね。おかげでここは何屋なのか、看板を付け替えたほうがいいくらいにはいつからか店中がだれかの憎しみで溢れ返ってたよ。誰も買いやしない。メグマレナイ国の子供たちに寄付するくらいしか使い道はないね。

「家中を探しても見つからないんです。どの時間の引き出しを開けてもぼうっと光っていて、そうそうひとつだけ真っ暗でどこまでもどこまでも黒い、音の無い無限が入っている引き出しを見つけたんですけど、それ以外は全部ただぼうっと光っていました。」
詰め放題で持っていっていいよと言うと、編み目のゆるいカゴにせっせと詰めはじめたけど、もうちっとも量が入らないのは一目瞭然だし、なんとぐつぐつとどす黒い色をしていたはずのそれらはその手に取られるとだんだんと透き通った水色に変わっていったのさ。さすがに少しびっくりしたね。
それで一息ついてカゴの中を改めて見た彼女はがっくりと肩を落とした。
「ああ、どうしてカゴの中身が変わっているの!こんなものありすぎてもうひとつも欲しくないのに!家中これで溢れ返ってまた明日も溺れてしまう。」
そう言ってしくしくと泣きながらカゴの中身を棚に戻して、何故か深々と謝罪をして店を出て行った。よく見ると彼女自身も透き通った水色に光っていて、足元の影はいっそう深くしんとしていた。棚に戻された商品をまじまじと見ると、絶えず細かくふるえ淡い光を放ち続けていた。資料室から古い図鑑を引っ張りだして調べると、これは哀しみと慈しみだとわかった。綺麗だから部屋に飾ろうと思ったけど持ち上げようとしたらばしゃんと液体になって二度と持ち上げることはできなくなった。


次に彼女が店に入って来たとき、僕は強盗に刃物を向けられている最中だった。今度は売りに来たのだろう、カゴいっぱいに透き通った水色をつめて凛とした顔つきで扉を開けた。空気を読まない訪問者に驚いた強盗はすぐに彼女にターゲットを変え、喉もとに刃を突きつけた。カゴは落ち、その中身はまたばしゃんと弾けて床に染み込んだ。強盗が脅し文句を言う程に彼女の落とす影がみるみると床中に黒く広がっていった。一瞬の停止を解くように、眉毛を下げて柔らかく微笑むと、しっかりと強盗の刃を持つ両手を掴んだ。またぼうっと光っていた。そのまま彼女は手を自分のほうへ引っ張り、腹部にしっかりと刺し込んだ。赤い血がいくら流れ出ても彼女は微笑んでいた。そして驚いて子供みたいな目に戻った強盗に、いくつかの言葉を丁寧に丁寧にかけると、驚いたことに強盗はこっちに来て深々と謝罪をし、何も取らずに帰っていった。ドアのしまる音を聞くと彼女はようやく微笑みを溶かし、呻き声をあげ脂汗を流し、床に突っ伏し暫く悶えては絞り出すように「ごめんなさい」を繰り返した。医者を呼ぼうと彼女の近くに行こうとした刹那、周りの影がその身体を飲み込んだ。飲み込まれる寸前に心臓が止まる音が聞こえた気がしたけれど、確認する術は無かった。


…ああ、シリアスな展開になっちまったね。口調を戻そう。
彼女は街のはずれのオンボロの廃墟に勝手に住んでいた。近所の子供らにはなんとかの城って呼ばれてた。小ぶりだけど形が城に似てたんだ。
色んなことを調べたんだよ。なんであのとき彼女は自分を刺さなきゃいけなかったのか。自分を自分で刺さなきゃいけない人間なんざ居るはずがないんだ。なんて今言っても遅いかなあ。おいおい睨まないでおくれよ。結果オーライってやつじゃないか。
お城からは毎晩鏡を叩き割る音が響いていたらしい。遠吠えみたいな泣き声と一緒に。部屋中に飽和していたんだろうな、やっぱりお城も全体がぼうっと光ってたってさ。
彼女が最初に買い物に来たとき、小さな声でこう言ったんだ。
「私は私を守れない私が情けなくて大嫌いです。私は私を守るために誰かを傷つける勇気がほしい。」
なあもしもまたあの子に会えるんだとしたらあんた何て言うんだい?
しかし今回の件には脱帽したね。あんた、真っ白い手紙をあの彼女の城の、無限に続く引き出しの中に落としたそうじゃないか。
もしかしたら本当にまた会えるかもしれないよ。って、あれ、おーい。まだ途中だよ、帰るなよ!
コーヒー代くらい置いていけって!




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